APY

APY

年間利回り(APY)は、暗号資産分野、特にDeFi(分散型金融)エコシステムにおける投資リターン評価の基礎的指標です。APYは、暗号資産が1年間で複利運用された場合にどれだけのリターンを生み出すかを示します。これにより、投資家は多様な投資機会間でリターンを比較できます。APYは、従来型金融の概念をブロックチェーン分野に拡張したものであり、現在ではステーキング、流動性マイニング、イールドファーミングなどの収益性を測る業界標準の指標となっています。

APYとAPRの違い

年間利回り(APY)と年率(APR)はしばしば誤解される金融指標ですが、その算出方法には根本的な違いがあります。

  1. 複利効果:APYは複利を考慮し、運用益を再投資した際の追加収益を反映します。APRは複利を考慮せず、単純な年利のみを示します。

  2. 実質リターンの反映:同一の名目利率であっても、APYは常にAPR以上となり、その差は複利頻度で決まります。たとえば、あるDeFiプロトコルが10%のAPRを日次複利で提供する場合、実際のAPYは10.52%に達することがあります。

  3. 暗号資産市場での使われ方:DeFiプラットフォームでは高利回りをアピールするためにAPYが用いられ、借入コストはAPRで示し、低く見せるケースが一般的です。

  4. 計算式の比較:

    • APR = 期間利率 × 複利回数
    • APY = (1 + 期間利率)複利回数 - 1

これらの違いを正確に理解することで、投資家は各種DeFi商品の真の収益性を評価できるようになります。

DeFi領域におけるAPYの活用

年間利回り(APY)は、分散型金融(DeFi)エコシステムにおいて次のような重要な役割を果たします。

  1. イールドファーミング:ユーザーは暗号資産を流動性プールに預け、取引手数料やトークン報酬を受け取ります。プラットフォームは一般的に期待利回りをAPYで表示します。代表例として、CompoundやAaveなどの貸付プロトコルによる流動性マイニングが挙げられます。

  2. ステーキング:ユーザーはトークンをロックし、ネットワークのコンセンサスやガバナンスに参加することで報酬を得ます。例えば、Ethereum 2.0のステーキングはおおむね3%から5%のAPYを提供し、他のPoSチェーンでも同様の利回りが見られます。

  3. 貸付プラットフォーム:AaveやCompoundなどのプロトコルでは、資産の預け入れによる利息収入や、借入時の利息負担のいずれもAPYで計算・表示されます。

  4. 自動イールドアグリゲーター:Yearn.Financeのようなプラットフォームが、最大収益化を目指して資金を複数プロトコルへ自動的に再配分し、想定利回りをAPYで表示します。

  5. 流動性提供:UniswapやSushiSwapなどの分散型取引所(DEX)では、流動性提供者が取引手数料や追加インセンティブを受け取り、その収益がAPYで表示されます。

  6. 合成資産プラットフォーム:Synthetixのようなプラットフォームにて、ユーザーは合成資産を発行・SNXトークンをステーキングし、報酬をAPYで獲得します。

これらの利用シーンから、DeFi利用者にとってAPYは資産配分を判断する際の重要な参考指標となっています。

市場への影響

年間利回り(APY)は暗号資産市場に対し、次のような大きな影響を与えています。

  1. 資金移動の誘因:高APYプロジェクトは大規模な資金流入を呼び込み、DeFiプロトコル間の資金配分に直接影響を及ぼします。例えば、3桁台のAPYをうたう新プロジェクト登場時には、既存プラットフォームの預かり資産(TVL)が大きく減少することがあります。

  2. トークン価格への影響:高APYプロジェクトでは、ユーザーが利回り獲得のためトークンを購入・ステーキングした結果、ネイティブトークン価格が短期的に急騰します。一方で、APYの低下やインセンティブ減少時には大量売却が発生しやすくなります。

  3. イノベーション推進:APYを巡る競争は、オートコンパウンド、リスク分散ツール、収益最適化アルゴリズムなど利回り機構の継続的な技術革新を促し、DeFi全体の進化につながっています。

  4. リスク許容度の変化:高APY追求は投資家のリスク志向を高め、スマートコントラクトリスクやインパーマネントロス、トークン暴落リスクなどを軽視する傾向が強まり、市場に危険な心理状況をもたらします。

  5. 持続性への課題:多くのプロジェクトは当初、持続困難な高APYを設定してユーザーを集めますが、時間経過とともに利回りを大幅に下げざるを得ません。この「APYトラップ」によって、初期急成長後にプロジェクトが急速に衰退する例が多く見られます。

  6. 規制当局の注視:異常な高APYは金融リスクの兆候として各国規制当局の注目を集め、規制強化の動きにつながっています。

リスクと課題

暗号資産投資で年間利回り(APY)を考慮する際、投資家が把握すべき主なリスクと課題は以下の通りです。

  1. ボラティリティリスク:高APY案件の多くはボラティリティが極めて高く、報酬がプラットフォームトークンで支払われる場合には特に価格変動の影響が大きく、APYの利得を帳消しまたは超過する可能性があります。

  2. 持続性の欠如:多くのプロジェクトは、トークン供給量を拡大しインセンティブを付与することで一時的に1,000%以上の高APYを提示しますが、これらは短期で急減するのが一般的です。

  3. スマートコントラクトリスク:高APYを謳うDeFiプロトコルにはセキュリティリスクが伴い、2022年の複数高利回りプロトコルに対するフラッシュローン攻撃など、ハッキング被害による資金流出リスクがあります。

  4. インパーマネントロス:流動性マイニング時、ペアとなる資産間の価格乖離によって、APY収益を上回るインパーマネントロスが発生する場合があります。

  5. プロトコルリスク:プロジェクト運営側による悪意のあるコード実装や開発放棄、「ラグプル(Rug Pull)」等により、投資家資金が全損するリスクが存在します。

  6. 規制リスク:各国規制当局による高利回り暗号資産商品の取締りが強まっており、突発的な規制対応によってプロジェクトの合法性や継続性が揺らぐ可能性があります。

  7. 複雑性リスク:APY計算は市場環境の現状に基づく一方で、ステーキング利率・プロトコル方針・流動性変動などの要因が反映されないことが多く、実際のリターン予測が困難です。

  8. ロックアップ制約:高APY商品には長期間の資産ロックアップを要するものが多く、流動性が制限されることで、市場の急変時に投資家リスクが高まります。

APYは複数ある評価指標の一つとして捉え、唯一の判断基準としないことが重要です。

関連記事

ブロックチェーンについて知っておくべきことすべて
初級編

ブロックチェーンについて知っておくべきことすべて

ブロックチェーンとは何か、その有用性、レイヤーとロールアップの背後にある意味、ブロックチェーンの比較、さまざまな暗号エコシステムがどのように構築されているか?
11/21/2022, 9:47:18 AM
ステーブルコインとは何ですか?
初級編

ステーブルコインとは何ですか?

ステーブルコインは安定した価格の暗号通貨であり、現実の世界では法定通貨に固定されることがよくあります。 たとえば、現在最も一般的に使用されているステーブルコインであるUSDTを例にとると、USDTは米ドルに固定されており、1USDT = 1USDです。
11/21/2022, 9:43:19 AM
流動性ファーミングとは何ですか?
初級編

流動性ファーミングとは何ですか?

流動性ファーミングは分散型金融(DeFi)の新しいトレンドであり、暗号投資家が暗号資産を十分に活用し、高いリターンを得ることができます。
11/21/2022, 9:33:51 AM